「英語は初心者なので、まず日常英会話を身につけてから、難しいビジネス英語を勉強したい」

そう考える人は多いと思います。

ビジネス英語と聞くと、難しい単語や堅苦しい表現を使い、流暢に交渉する上級者向けの英語に思えるからです。

しかし、仕事で英語を使うことが目的なら、日常英会話から始める必要はありません。むしろ、自分の仕事に限れば、ビジネス英語の方が日常英会話より取り組みやすいことがあります。

私自身、それを強く実感した経験があります。

昼は英語で交渉できたのに、夜はほとんど話せなかった

27歳の頃、初めての海外出張で台湾を訪れました。

昼間は仕入れ先の工場で、不良や品質、納期、取引条件について、英語でかなり激しくやり取りしていました。

相手の説明に納得できなければ質問し、こちらの要求を伝え、今後の対応を確認する。英語は決して流暢ではありませんでしたが、仕事の話は何とか進めることができました。

ところが、仕事が終わって相手と夕食へ行くと、ほとんど会話が続きません。

食事、趣味、家族、台湾の文化、休日の過ごし方。話題が仕事から離れた途端、必要な単語も表現も出てこなくなりました。

昼間は英語で品質問題を交渉していた人間が、夜になると簡単な雑談にも困っている。自分でも、その落差がおかしくなりました。

当時の私は、英語全般ができたのではありません。自分の専門分野で使う、限られた英語だけが使えたのです。

しかし、仕事をするうえでは、それでも十分な第一歩でした。

ビジネス英語の範囲は意外に狭い

日常会話では、何が話題になるかわかりません。

天気、料理、スポーツ、音楽、映画、政治、家族、旅行、病気、地域の習慣。相手の一言から、会話が思いがけない方向へ広がることもあります。

幅広い会話に対応するには、非常に多くの単語と背景知識が必要です。

一方、仕事で使う英語は、業務によって範囲がある程度決まっています。

私の場合は、次のような内容が中心でした。

  • 品質上の問題を説明する
  • 原因と対策を確認する
  • 納期を確認・催促する
  • 数量や価格について交渉する
  • 会議で結論と次の行動を決める
  • 上司へ進捗や問題を報告する

同じ仕事を続けていると、使う単語や表現も繰り返し出てきます。

不良、原因、納期、在庫、対策、期限、担当者。自分が日本語で毎日使っている言葉を、英語ではどう表現するのか。その順番で覚えていけばよいのです。

ビジネス英語は難しい英語というより、目的が明確な英語です。

社会人には、すでに仕事の知識がある

社会人が仕事英語を学ぶとき、大きな強みがあります。

それは、英語はわからなくても、仕事の内容はわかっていることです。

品質担当者なら、どのような説明がなければ原因分析として不十分なのかがわかります。購買担当者なら、価格だけでなく、納期、品質、供給能力、支払条件を確認すべきことを知っています。

管理職なら、報告に必要なのは、長い経緯説明ではなく、現状、影響、対策、必要な判断だとわかっています。

つまり、新しく学ぶのは仕事そのものではありません。すでに持っている知識を、英語でどう伝えるかです。

このため、自分の専門分野から始めれば、英語学習の範囲をかなり絞れます。

難しい単語より、仕事を動かす表現を覚える

仕事英語で大切なのは、難しい言葉を使うことではありません。

相手に次のことが明確に伝わることです。

  • 何が起きているのか
  • 何が問題なのか
  • 相手に何をしてほしいのか
  • いつまでに必要なのか
  • 次に誰が何をするのか

たとえば納期を確認するなら、華麗な表現を使う必要はありません。

Could you confirm the delivery date?

期限までに回答が必要なら、

Could you confirm the delivery date by Friday?

と付け加えれば、相手が取るべき行動は明確になります。

仕事では、英語が上手に見えることより、どう読んでも一つの意味にしか取れないことの方が重要です。

特に英語を母語としない人同士では、曖昧な表現による取り違いが、納期遅延や品質問題につながることがあります。

短く、簡単で、誤解されにくい英語の方が、仕事では強いのです。

日常英会話ができてから、と考えなくてよい

仕事で英語を使いたいのに、まず日常英会話を幅広く身につけようとすると、なかなか仕事で使えるところまで到達しません。

学習の成果も実感しにくいため、途中で挫折することがあります。

それより、明日の仕事で必要な表現から覚えた方が、すぐに試せます。

覚えた表現をメールや会議で使い、相手に通じ、実際に仕事が動く。この「通じた!」という経験が、学習を続ける力になります。

私も最初は、自分の専門分野のことしか話せませんでした。

しかし、品質問題について説明できた。納期を確認できた。仕入れ先と条件を話し合えた。その一つひとつが、使える英語として定着していきました。

仕事英語を使えるようになった後で、雑談や食事の会話を少しずつ広げても遅くありません。

今はAIを使えば、自分の仕事に必要な英文や表現をすぐに確認できます。その意味でも、日常英会話を一通り習得してから仕事英語へ進む必要はなくなりました。AIとの付き合い方は、AI時代でも英語を学ぶべき理由で詳しく紹介しています。

ビジネス英語は「難しい英語」ではない

もちろん、英語で高度な契約交渉や複雑な人事問題を扱うには、相応の力が必要です。

しかし、最初から英語全般を自由に使えるようになる必要はありません。

まずは、自分の仕事で繰り返し使う言葉と表現を覚える。実際に使って、通じる経験を積む。必要になった範囲を少しずつ広げる。

その方法なら、日常英会話に自信がない人でも始められます。

昼間は品質問題について交渉できるのに、夜の食事では会話が続かない。それでも構いません。

仕事を進めるために必要な英語が使えたなら、それは立派な仕事英語です。

ビジネス英語は、英語上級者になってから挑戦するものではありません。自分の仕事に必要な英語から始めることが、仕事で英語を使えるようになる最短ルートです。