英語を学び始めた頃、私はネイティブのように話せる人に強い憧れがありました。
海外留学や駐在の経験はありません。帰国子女が欧米人のような発音で流暢に話すのを聞くと、自分の英語との違いを感じ、「留学しておけばよかった」と思ったこともあります。
しかし、実際に海外の人たちと仕事をするようになって、考え方が変わりました。
仕事で必要なのは、ネイティブのように話すことではありません。
相手と理解し合い、仕事を前へ進めることです。
最初に英語で仕事をした相手は、ネイティブではなかった
私が仕事で初めて本格的に英語を使った相手は、台湾、韓国、ベトナム、中国など、アジアの国々の人たちでした。
お互いに、英語を母国語としているわけではありません。
それでも、品質、納期、価格といった重要な問題について、何度も話し合い、交渉してきました。
使ったのは、決して流暢な英語ではありません。知っている単語と表現を使い、できるだけシンプルに伝える。分からないときは聞き直し、認識が合っているか確認する。
そうしたやり取りを重ねながら、会社同士の関係だけでなく、人と人との信頼関係も築くことができました。
この経験から、私は次第にこう考えるようになりました。
ビジネスで使う英語は、ネイティブのように流暢でなくてもよい。シンプルで分かりやすく、意思疎通ができれば十分である。
世界では、それぞれの英語が使われている
国際的な仕事の場では、さまざまな国の人が、それぞれの発音やアクセントで英語を話しています。
日本人は日本人らしい英語を話し、中国人は中国人らしい英語を話す。台湾、韓国、ベトナム、インドなど、国や地域によっても英語の響きは違います。
それでも、基本的な表現を守り、相手に伝わるように話せば、コミュニケーションは成立します。
日本語でも、地域によって発音や言葉遣いは違います。それでも、お互いに理解しようとすれば話は通じます。英語も同じです。
必要なのは、誰かの発音を完璧に再現することではありません。自分が伝えるべき内容を持ち、それを相手に分かる形で届けることです。
コミュニケーションは、双方でするもの
日本人は英語を話すとき、必要以上に自分だけで責任を背負ってしまうことがあります。
- 正しい文章で話さなければならない
- 発音が悪かったら相手に迷惑をかける
- 一度で聞き取れなければ恥ずかしい
しかし、コミュニケーションは試験ではありません。
相手の話が速ければ、ゆっくり話してもらえばよい。分からない言葉があれば、別の言い方で説明してもらう。こちらの表現が伝わらなければ、知っている言葉で言い換える。
相手にも、こちらを理解するために協力してもらえばよいのです。
「私も日本語を話せなくて申し訳ありません」
英語を母国語とする人の中にも、時々とても気の利いたことを言う人がいます。
こちらが「英語が上手ではなくてすみません」と言うと、アメリカ人の相手から、こんな趣旨の言葉が返ってくることがありました。
私も日本語を話せなくて申し訳ありません。英語でコミュニケーションさせてください。
この言葉を聞くと、こちらだけが恐縮する必要はないのだと気づかされます。
日本人が英語を話せないことだけが問題なのではありません。日本にいるアメリカ人が日本語を話せないことも、条件としては同じです。
どちらが上で、どちらが下という話ではありません。たまたま双方が使える共通の手段として、英語を選んでいるだけです。
こう言ってもらえると緊張が和らぎ、間違いを恐れずに話しやすくなります。言葉の上手さを評価し合う場ではなく、協力して理解し合う場なのだと確認できるからです。
伝える側と受け取る側の双方が、理解のために少しずつ努力する。
英語が母国語ではない側だけに、コミュニケーションの責任があるわけではありません。これが、対等なコミュニケーションの出発点です。
国際間では、分からないことが多いからこそ
この考え方は、国際間の仕事で特に有効だと思います。
国が違えば、言葉だけでなく、文化、習慣、常識、仕事の進め方も違います。こちらにとって当然のことが、相手には当然ではないこともあります。
メールの返事が短い理由も、会議で黙っている理由も、こちらの考え方だけでは正しく判断できないことがあります。
分からないことが多いからこそ、一方的に正しさを主張するのではなく、質問し、確認し、相手を理解しようとする姿勢が必要になります。
英語の正確さだけに意識を向けるより、相手が何を考えているのか、こちらの意図がどう受け取られているのかを確かめる。その方が、仕事はずっとスムーズに進みます。
大切なのは、英語で何を伝えるか
英語は、あくまでコミュニケーションのための道具です。
英語が流暢でも、伝える内容がなければ仕事は進みません。反対に、英語が多少不格好でも、仕事への理解が深く、相手が必要とする内容を伝えられる人は信頼されます。
以前、ある日本人の英語教師から、次のような趣旨のことを教えられました。
発音がネイティブのようにきれいでなくても、話す内容がしっかりしていれば尊敬される。
私はこの言葉を意識して仕事をしてきました。
まず、自分の仕事をきちんと理解する。そのうえで、必要なことを相手に伝えられる英語を身につける。
英語の勉強そのものを目的にするのではなく、仕事をよりよく進めるために英語を使う。その順番を間違えないことが大切です。
自分の英語で、堂々と話せばよい
仕事で求められているのは、英語力を披露することではありません。
相手と情報を共有し、問題を解決し、合意をつくり、行動につなげることです。
完璧な文が頭に浮かぶまで黙っているより、知っている言葉を使って話し始める。聞き取れなければ聞き直す。分からなければ質問する。
そうやって、お互いに理解できるところまで一緒に進めればよいのです。
ネイティブのような英語を目標にする必要はありません。
自分の仕事を理解し、自分の言葉を持ち、自分の英語で相手と伝え合う。
それが、私が国際的な仕事の経験から学んだ、実際に役立つ仕事英語です。
