ChatGPTや翻訳AIを使えば、英語のメールは短時間で作れます。文法の間違いも直してくれますし、オンライン会議の字幕やリアルタイム翻訳も急速に進歩しています。
では、これから英語を学ぶ意味はなくなるのでしょうか。
私の答えは「英語は必要。ただし、学ぶべき英語は変わった」です。
私は海外駐在や留学を経験せず、独学と実際の仕事を通じて英語を身につけてきました。日本企業2社、外資系企業6社で働き、海外出張は70回を超えます。その経験から感じるのは、仕事で必要なのは、難しい英語を自在に操る力ではないということです。
大切なのは、何を伝えるべきかを自分で判断し、誤解のない言葉にして、人と仕事を前へ動かす力です。AIは、その力を大きく助けてくれます。しかし、すべてを代わりに引き受けてくれるわけではありません。
AIによって、英語の仕事は確実に楽になった
以前は、英文メールを書くたびに辞書を引き、文法を確認し、過去のメールから似た表現を探していました。短いメールでも、送信するまでにかなり時間がかかることがありました。
今はAIに目的、相手、背景を伝えれば、数秒でたたき台ができます。文法、スペル、語調の調整も得意です。英語が苦手な人にとって、最初の一文を書き始めるハードルは劇的に下がりました。
だから、昔と同じように「すべての英文をゼロから自力で書けるようになる」ことを、英語学習の最終目標にする必要はありません。
ただし、AIが作った英文をそのまま送れば仕事が進むかというと、そう単純ではありません。
AIは英文を作れる。でも「何を伝えるか」は決められない
仕事のメールで本当に難しいのは、英訳そのものではありません。
- 相手に何をしてほしいのか
- 誰が責任を持つのか
- いつまでに必要なのか
- どの事実を先に伝えるのか
- どこまで強く言うべきか
こうした判断が曖昧なままでは、AIは曖昧な英文をきれいに整えるだけです。文法的に正しくても、仕事が進まないメールはできてしまいます。
たとえば「なるべく早く送ってください」とAIに頼めば、自然な英文にはなります。しかし、相手が知りたいのは、何を、誰に、何日の何時までに送るのかです。
Please send the revised price list to Hiroyuki by 3:00 p.m. JST on Friday, September 11.
このように、どう読んでも一つの意味にしか取れない状態にするのは、人間の仕事です。特にノンネイティブ同士のやり取りでは、ちょっとした取り違いが納期、数量、価格の問題につながることがあります。
AI時代に残る、4つの英語力
1. AIの英文が正しいか判断する力
AIの英文は非常に自然になりました。それでも、事実関係や専門用語、否定表現、数字、日付、責任の所在まで正しいとは限りません。
ある程度英語が分かれば、「文法は正しいが、自分が言いたいこととは違う」「この表現は少し強すぎる」と気づけます。AI時代には、自分ですべてを書く力以上に、AIの出力を評価して直す力が重要になります。
2. 相手に合わせて英語を変える力
私が米国企業とやり取りするときは、相手がネイティブスピーカーであることを意識し、文法的に正しく自然な英語を書くよう心がけていました。
一方、アジアや欧州の企業では、英語を母語としない人とも数多く仕事をしました。その場合は、難しい表現よりも、短い文、基本的な単語、意味が一つに決まる表現を選びました。ドイツを含め、英語が得意とは限らない相手との仕事では、この配慮がとても重要でした。
これは国籍で決めつけるという意味ではありません。実際にやり取りする相手の英語力と状況に合わせる、ということです。AIに「自然な英語にして」とだけ頼むのではなく、「英語が母語ではない人にも誤解なく伝わるよう、短い文と基本的な単語で書いて」と指示する必要があります。
3. その場で関係を築く力
メールや資料の作成はAIがかなり助けてくれます。しかし、会議の雑談、休憩時間、食事、工場を一緒に歩いているときなど、予定されていない会話では、自分の言葉が必要です。
以前、英会話を習っていたとき、日本人の先生から言われた言葉が今も心に残っています。
発音がネイティブのようにきれいでなくても、言っている内容がしっかりしている人は信頼される。
この言葉を聞いて、気持ちがとても楽になりました。仕事で信頼を得るために、ネイティブのような発音を目指す必要はありません。相手に伝わる発音は必要ですが、それ以上に、結論が明確で、事実や数字に基づき、自分の考えを持って話すことが大切です。
英語が完璧である必要はありません。短い言葉でも、自分から話しかけ、相手の反応を見ながら言い直せることには価値があります。人と人との信頼関係では、いまもフェイストゥフェイスに勝るものはないと感じています。
4. 相手の言葉の温度を感じる力
昔、どれほど厳しい内容のメールを受けても、嫌味がなく、読んだ後に気持ちよく仕事へ戻れる返信をする人がいました。ネイティブスピーカーで、私は「この人の英語を真似したい」と思い、その人の表現や文章の組み立てを一生懸命真似しました。
実際の仕事で交わされるネイティブスピーカーのメールは、とても参考になりました。教科書の例文ではなく、その場の緊張感、相手への配慮、仕事を前へ進める意図が入った「生きた表現」だからです。
もちろん、ネイティブが書いたメールなら何でもお手本になるわけではありません。大切なのは、読んで気持ちがよく、仕事が進むメールを書く人を一人見つけ、その人の語彙だけでなく、文章の順序や温度まで真似ることです。
これからは、AIを使いながら英語を身につける
AIを使うことと、英語を学ぶことは対立しません。AIを英語の先生兼編集者として使えば、実際の仕事を進めながら学べます。
- まず自分で、伝える目的と事実を整理する
- 短く簡単な英語で下書きする
- AIに文法、自然さ、語調、曖昧さを確認させる
- 修正理由を質問し、使えそうな表現を覚える
- 実際に送った表現を、次の仕事でも使う
AIに丸投げするのではなく、自分の英文とAIの修正版を比べることが大切です。違いを確認するたびに、使える表現が少しずつ増えていきます。
仕事で使えるAIへの指示例
英文メールを直すときは、次のように頼むと目的が明確になります。
この英文を、英語が母語ではない取引先にも誤解なく伝わるビジネス英語に直してください。短い文と基本的な単語を使い、慣用句を避けてください。担当者、行動、数量、期限が曖昧な場合は指摘してください。修正した理由も日本語で説明してください。
米国のネイティブスピーカーへ送る場合は、「簡潔で自然な米国ビジネス英語にしてください。ただし、強すぎたり冷たくなったりしないように」と条件を変えます。
AIの性能よりも、誰に、何を、どう伝えたいかを指示できることの方が重要です。
目指すのは「英語ができる人」ではなく「英語で仕事を進められる人」
AIによって、文法や表現の壁は確実に低くなりました。これは、英語が苦手な人にとって大きなチャンスです。
これから必要なのは、ネイティブのような完璧な英語ではありません。
- 伝える内容を整理する
- AIの英文を確認する
- 相手に合わせて分かりやすくする
- その場で短くても自分の言葉を返す
- 英語を使って人と仕事を動かす
AIで英語が不要になるのではありません。AIによって、英語学習の目的が「正しい英文を一人で作ること」から「AIを使いながら、相手と仕事を前へ進めること」へ変わったのです。
英文メールを実際の仕事で使える形にする方法は、「ビジネス英語メールのコツ|仕事が進む本文・例文・署名の書き方」で、報告・依頼・確認・催促の例文とともに解説しています。
