海外の仕入れ先と仕事をしていた頃、どんなに厳しい内容のメールを送っても、嫌味がなく、気持ちのよい返信をしてくれる人がいました。
品質上の問題を伝えたときも、納期を強く催促したときも、その人の返事を読むと不思議と前向きな気持ちになりました。
私は「この人の英語を真似したい」と思い、メールに書かれていた表現を一生懸命覚え、実際の仕事で使ってみました。
振り返ると、これが私のビジネス英語を大きく伸ばした学習法の一つでした。
ビジネス英語は、上手な人の表現を真似ると早い
英語を一から自分で組み立てようとすると、単語、文法、語順、相手への配慮を一度に考えなければなりません。特に仕事のメールでは、内容が正しくても、表現が強すぎたり、逆に曖昧すぎたりすることがあります。
一方、実際の仕事で上手に使われた表現には、正しい英語だけでなく、相手との距離感や仕事を前へ進める工夫も含まれています。
自分の仕事に近い場面で、コミュニケーションの上手な人が使った表現を真似る。これは、非常に効率のよい学び方です。
単語だけでは、仕事で使える文章にならない
最低限の単語を覚えることは必要です。しかし、単語や熟語だけを覚えても、仕事の場面ですぐに文章として使えるとは限りません。
たとえば、単語を一つ知っていても、その前後にどの言葉を置くのか、どの前置詞を使うのか、どの程度丁寧な表現なのかまではわかりません。
例文ごと覚えておけば、製品名、日付、数量、相手にしてほしい行動などを入れ替えるだけで、自分の仕事に使えます。
単語を覚えるのではなく、仕事でそのまま使える「表現のかたまり」を覚える。
これが、知っている英語を使える英語に変える近道です。
教材の例文が、実際の仕事で何度も出てきた
私は2000年頃から、DUOなどの教材を使って例文を覚えてきました。当時は米国から製品を輸入する仕事をしており、ネイティブから届くメールや会話の中に、教材で覚えた表現が何度も出てきました。
教材のために作られた特別な英語ではなく、実際に仕事で使われている表現なのだと実感しました。そして、覚えた例文を少し変えて使ってみると、相手にきちんと通じました。
例文を数多く覚えると、英語特有の語順や言葉の組み合わせが、少しずつ感覚として身についてきます。文法を先に完全に理解していなくても、正しい例文を蓄積することで、後から文法の意味がわかることもあります。
最も価値があるのは、実際に届いた「生きた例文」
教材は、基本的な表現を効率よく学ぶのに役立ちます。しかし、自分の仕事に最も近い教材は、実際に相手から届いたメールです。
特にネイティブスピーカーのメールは、その場面で本当に使われている生きた表現として、とても参考になりました。
ただし、お手本はネイティブである必要はありません。英語を母語としない人でも、短く、明確で、相手への配慮があり、仕事を確実に進める人がいます。むしろノンネイティブの英語の方が、簡単で真似しやすいこともあります。
お手本にしたい人を選ぶ3つの基準
- 読んだ瞬間に、何を伝えたいのかわかる
- 短く明確で、誤解の余地が少ない
- 厳しい内容でも、相手を不快にさせない
難しい単語を多く使う人や、ネイティブらしい表現を使う人が、必ずしも最良のお手本とは限りません。目指すべきなのは、英語が上手に見える文章ではなく、相手が気持ちよく行動できる文章です。
実務で驚くほど返信が来た催促表現
米国の仕入れ先と大きな時差があり、メールで催促する必要があったとき、驚くほど返信が来る表現がありました。
Have you had a chance to read the email I sent on August 25?
「8月25日に送ったメールを読む機会はありましたか」という、相手を責めない柔らかな確認です。日付を入れることで、相手も該当メールを探しやすくなります。
催促だからといって、強い言葉を使う必要はありません。相手が返事をしやすい形を作る方が、仕事は動きます。
なお、勤務時間が重なり、リアルタイムで連絡できる相手なら、メールを重ねるよりTeamsなどのチャットで短く確認する方が早い場合もあります。メールとチャットは、時差と緊急度で使い分けます。
生きた例文を自分のものにする4つの手順
1.よい表現を、前後の状況と一緒に保存する
英文だけでなく、「納期確認」「品質問題への返信」「会議後の行動確認」など、使われた場面も記録します。
2.変える部分を見つける
日付、製品名、数量、期限、依頼内容など、次回入れ替える部分を確認します。文章の骨格はそのまま残します。
3.実際の仕事で使う
覚えるだけで終わらせず、メール、チャット、会議で使います。相手に意図どおり通じたら、その表現は自分の実務で使えると確認できます。
4.相手の反応から学ぶ
返信が早かったか、誤解なく行動してくれたか、雰囲気が悪くならなかったかを見ます。英語の良し悪しは、文法だけでなく、仕事がどう動いたかでも判断できます。
以前は先生に、今はAIに添削してもらう
以前、難しい局面でメールを送るときは、まず自分で英文を書き、それを英会話のレッスンへ持っていきました。
先生に確認してもらったのは、文法の正しさだけではありません。
- 相手に対して、きつすぎる表現になっていないか
- 配慮するあまり、問題の重大さや要求が弱くなっていないか
- こちらが本当に伝えたい内容が、誤解なく伝わるか
厳しいことを伝えなければならない場面ほど、このバランスが難しいものです。相手を不必要に責めず、しかし仕事上必要な内容は曖昧にしない。その調整を、先生とのレッスンで学びました。
今は、同じような確認をAIにいつでも頼めます。英文を直してもらうだけでなく、なぜきつく感じるのか、どの部分を変えれば柔らかくなるのか、内容を弱めずに丁寧にするにはどうすればよいかまで説明してもらえます。
たとえば、次のように頼めます。
次の英文は、納期遅延に対する強い懸念を伝えるメールです。相手を不必要に責めず、問題の重大さと回答期限は弱めない表現に修正してください。修正した理由も日本語で説明してください。
お手本にしたい英文がある場合は、次のような使い方もできます。
この英文が相手に与える印象を説明し、丁寧さを保ったまま、納期確認と進捗確認に使える例文を3つ作ってください。
以前はレッスンの日まで待つ必要がありましたが、今はメールを書くその場で確認できます。ただし、AIが作った表現が、自分と相手の関係や問題の深刻さに合っているかを最終的に判断するのは自分です。
真似ることは、盗むことではなく基本を身につけること
英語が上手な人の表現を真似ることに、遠慮はいりません。スポーツでも音楽でも、上達の最初はよいお手本を再現することです。
教材の例文を覚える。実際のメールから生きた表現を集める。仕事が上手な人の言い回しを真似る。そして、自分の仕事で使って相手の反応から学ぶ。
この繰り返しによって、借りてきた表現は少しずつ自分の英語になります。
