ChatGPTに仕事の相談をすると、最後に、
「私ならAを勧めます」
と、かなり明確な意見を返してくることがあります。
理由も整理されていて、文章にも迷いがありません。
読んでいると、そのまま従ってもよさそうな気がしてきます。
でも僕は、仕事の意思決定をChatGPTに任せることは、ほとんどありません。
「AとBのどちらがいい?」と聞くよりも、
「僕はAだと思っている。ただ、見落としていることはないか」
と聞くことの方が多いです。
前の記事では、質問を完成させてからAIを使うのではなく、質問を作るところからAIを使うと書きました。
今回は、その先にある「決める」という仕事について考えてみます。
AIに答えを決めてもらいたいのではありません。
自分の判断を、もう一度別の方向から見てもらいたいのです。
輸入をやめるか、続けるか
少し前、工場で使用する容器の調達について考える機会がありました。
それまで国内メーカーから購入していた容器が、国際情勢の影響で十分に入らなくなり、海外から緊急輸入していました。
供給を止めないためには必要な対応でした。
しかし、海外から多めに確保した結果、在庫が増え、外部倉庫の費用もかかるようになりました。
その後、国内メーカーからの供給は回復してきました。
目の前の状況だけを見れば、
「もう輸入容器を買う必要はない」
という結論になります。
一方で、輸入を完全にやめて以前の状態に戻せば、また同じような供給危機が起きたときに、同じことを繰り返す可能性があります。
ここでAIに、
「国内品と輸入品のどちらを使うべきか」
と決めてもらうこともできます。
でも、僕はすでに自分なりの考えを持っていました。
当面は輸入容器を追加購入する必要はない。
ただし、将来の供給リスクを考えると、平常時から一定量の輸入品を使い続けた方がよいのではないか。
その考えをAIに伝えました。
すると、単なる「輸入を続けるか、やめるか」という二者択一ではなく、
国内供給の回復によって、まず過剰在庫を減らす。
そのうえで、調達部門と適切な輸入比率を考える。
容器によっては顧客や製品との相性もあるため、営業部門とも調整する。
という形に整理されました。
僕が考えた方向を、AIが決めたわけではありません。
僕の案を別の角度から見て、実行するうえで抜けていることを加えてくれたのです。
そして、このやり取りを通じて、
「当面は買わない。しかし、将来に備えて調達先は残す」
という考えを、経営会議でも説明できる形にできました。
そもそも、AかBかではありませんでした
このとき改めて感じたのは、仕事上の意思決定は、必ずしもAかBかではないということです。
国内品か、輸入品か。
今すぐ買うか、完全にやめるか。
そんな単純な選択に見えても、実際には時間軸があります。
今は買わない。
在庫が正常になったら、一定量だけ使う。
品質や顧客の条件を確認しながら対象を増やす。
問題が起きたときにすぐ調達量を増やせる関係は維持する。
こうして分けて考えると、別の選択肢が見えてきます。
AIに結論を聞くだけなら、
「コストを考えると国内品」
「供給リスクを考えると複数購買」
のような、もっともらしい答えで終わったかもしれません。
しかし、自分の考えを先に伝えたことで、AIを使って、その考えを具体的な方針に近づけることができました。
薬品漏えいで、すぐに犯人を決めなかった
別のときには、海外から届いたコンテナの中で薬品が漏れる事故がありました。
漏れた薬品は、製品だけでなく、コンテナの床、輸送用のシャーシ、倉庫のアスファルト面にも影響していました。
当然、清掃や原状回復が必要になります。
費用も発生します。
このような問題が起きると、
「出荷元の責任なのか」
「輸送会社の責任なのか」
「誰が費用を負担するのか」
という話になります。
ここでも、AIに、
「どちらが悪いと思う?」
と聞いて、責任の所在を決めてもらうことはしませんでした。
AIは現物を見ていません。
積み込み時の状態も、輸送中に何が起きたのかも分かりません。
契約条件のすべてを知っているわけでもありません。
僕が決めていたのは、まず現場を安全な状態にすることでした。
同時に、大きな費用を確定させる前に、この問題を経営へ上げておく。
原因はまだ調査中なので、誰かの責任だとは断定しない。
ただし、清掃、修復、点検、廃棄などの費用が発生するため、最終的な費用負担については整理する必要がある。
その考えをAIに伝え、上司への説明に抜けや矛盾がないかを一緒に確認しました。
AIが役に立ったのは、犯人を決めたことではありません。
安全確保、原因調査、費用発生、責任の整理という、混ざりやすい問題を分けてくれたことです。
そして、原因を断定しないまま、問題の重要性はきちんと伝える文章にしてくれました。
自分の考えを出すと、反対意見も聞きやすくなります
僕がよく使うのは、
「僕はこう考えているけれど、どう思う?」
という聞き方です。
もう少し踏み込んで、
「この考えの弱いところはどこ?」
「相手の立場から見ると、どう反論される?」
「僕が見落としている関係者はいない?」
と聞くこともあります。
これは、自分の案をAIに承認してもらうためではありません。
むしろ、壊してもらうためです。
一人で考えていると、自分の考えに都合のよい材料ばかりを集めてしまうことがあります。
すでに結論を持っているときほど、その危険は大きくなります。
AIに自分の案を伝え、あえて別の立場から見てもらうと、考え直すべき点が早く見つかります。
それでも自分の考えが変わらなければ、その理由も明確になります。
結果として、意思決定が速くなります。
自分の意見がないときは、先に論点を整理します
もちろん、最初から自分の考えが決まっているとは限りません。
何が問題なのかも分からず、どこから考えればよいのか迷うこともあります。
そんなときは、AIに選んでもらうのではなく、まず論点を整理してもらいます。
どんな選択肢があるのか。
それぞれ誰に影響するのか。
今決めなければならないことは何か。
まだ調べなければならないことは何か。
最悪の場合、何が起きるのか。
そこまで整理されると、自分の考えが少しずつ見えてきます。
そこで初めて、
「僕はAの方向だと思う」
という仮の答えを置きます。
そして、もう一度AIにぶつけてみます。
この往復が、僕にとってのAIを使った意思決定です。
AIに任せるのは、決定ではなく検討です
管理職になると、正解が分からないまま決めなければならないことが増えます。
情報が全部揃うまで待っていたら、間に合わないこともあります。
一方で、自分一人で考えていると、同じところを何度も回ってしまいます。
AIは、その時間を短くしてくれます。
選択肢を整理する。
反対意見を出す。
関係者の視点を加える。
説明の弱い部分を見つける。
自分の考えを、他人に伝えられる言葉にする。
こうした作業は、かなり速くできます。
しかし、何を優先するかを決めるのは人間です。
コストを取るのか。
供給の安定を取るのか。
今すぐ動くのか。
もう少し調べるのか。
そして、その結果について誰が責任を持つのか。
そこまでAIに渡すことはできません。
最後に決めるのは、自分です
AIの答えは、ときに自信満々です。
迷いのない文章で、
「この選択が最適です」
と書くこともあります。
でも、文章に迷いがないことと、その判断が正しいことは別です。
AIには見えていない事情があります。
現場の空気があります。
過去の経緯があります。
数字には表れない人間関係もあります。
そして何より、AIはその決定の結果について責任を取りません。
だから僕は、ChatGPTに答えを決めてもらおうとは思いません。
自分の考えを伝える。
別の見方を出してもらう。
盲点を確認する。
必要なら考えを変える。
最後は自分で決める。
AIに意思決定を丸投げするのではなく、自分がより速く、より納得して決めるために使う。
これが、僕が仕事でChatGPTを使うときに大切にしている距離感です。
